腰部の不安定性から起こる腰痛

2026年09月7日

外傷や硬さがなくても腰が痛くなる理由

腰痛というと、多くの方は次のような原因を想像します。

・重い物を持った
・ぎっくり腰になった
・筋肉が硬い
・骨や椎間板に異常がある

もちろん、こうした要因で腰痛が起こることはあります。

しかし実際には、外傷がない、筋肉が極端に硬いわけでもない、それでも腰が痛くなるというケースがあります。

その背景として重要なのが、腰部の不安定性です。

ここでいう不安定性とは、骨が大きくズレているという意味ではありません。
腰椎、骨盤、体幹筋、神経のコントロールがうまく連動せず、腰を安定させる力が低下している状態を指します。

腰は「骨だけ」で安定しているわけではない

腰の安定性は、骨や靱帯だけで決まるものではありません。

脊柱の安定性については、Panjabiのモデルがよく知られています。
このモデルでは、腰の安定は次の3つのシステムによって保たれると考えられています。

・骨、椎間板、靱帯などの受動的システム
・筋肉や腱による能動的システム
・神経によるコントロールシステム

この3つが協調して働くことで、腰は安定します。
つまり、レントゲンやMRIで大きな異常がなくても、筋肉や神経の働きが乱れていれば、腰は不安定になる可能性があります。

この考え方は、脊柱安定性の基本モデルとして現在も重要視されています。
参考:Panjabi MM. The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction, adaptation, and enhancement. 1992

腰部の不安定性とは何か

腰部の不安定性とは、簡単に言うと
腰が必要なタイミングで安定できない状態です。

本来であれば、次のような動作の前に体幹の深い筋肉が働き、腰椎を安定させます。

・立ち上がる
・前かがみになる
・歩く
・荷物を持つ
・寝返りをする

しかし腰部の不安定性があると、この準備が遅れたり、不十分になったりします。

その結果、腰椎の一部に負担が集中し、炎症や大きな損傷がなくても痛みを感じることがあります。

なぜ外傷がなくても痛くなるのか

腰痛は「壊れたから痛い」と考えられがちです。

しかし、慢性的な腰痛では必ずしも明確な組織損傷が見つかるとは限りません。

Lancetの腰痛シリーズでも、腰痛の多くは特定の一つの侵害受容源を明確に特定できないとされ、単一の組織損傷だけでは説明できないケースが多いことが示されています。
参考:Hartvigsen J, et al. Low back pain series. The Lancet, 2018

これは「原因がない」という意味ではありません。

画像に写るような損傷ではなく、次のような“機能の問題”が痛みに関与している可能性があります。

・関節の動きの乱れ
・体幹筋の反応遅延
・姿勢制御の低下
・神経の過敏化
・動作パターンの崩れ

つまり腰痛は、外傷や硬さだけでなく、腰を支えるシステムの乱れでも起こるということです。

体幹筋が働かないと腰は不安定になる

腰部の安定性で特に重要なのが、深部体幹筋です。

代表的な筋肉は次の通りです。

・腹横筋
・多裂筋
・横隔膜
・骨盤底筋群

これらは、いわゆる腹筋運動で鍛える表面の筋肉とは役割が異なります。
深部体幹筋は、腰を大きく動かすためではなく、腰椎を細かく安定させるために働きます。

Hodgesらの研究では、腰痛のある人では腕を動かす際の腹横筋の収縮開始が遅れることが報告されています。
これは、腰を守る準備が遅れている状態とも考えられます。
参考:Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. 1996

この状態で日常動作を続けると、腰椎や椎間関節に負担が集中しやすくなります。

多裂筋の機能低下も重要

腰痛で特に見逃されやすいのが、多裂筋の機能低下です。

多裂筋は、腰椎のすぐ近くにある深い筋肉です。
一つ一つの椎骨を安定させる役割があり、腰部の安定性に深く関わります。

Hidesらの研究では、急性腰痛後の多裂筋の回復は、痛みが引いて通常生活に戻っても自動的には十分に起こらない可能性が報告されています。
参考:Hides JA, Richardson CA, Jull GA. Multifidus muscle recovery is not automatic after resolution of acute, first-episode low back pain. 1996

ここが非常に重要です。

痛みが軽くなっても、多裂筋の機能が戻っていなければ、腰椎の安定性は不十分なままです。

そのため、次のような状態につながることがあります。

・腰痛を繰り返す
・長時間座ると痛くなる
・中腰で不安になる
・運動後に腰が重くなる

「硬いから痛い」とは限らない

腰痛ではよく「体が硬いから痛い」と言われます。

もちろん、股関節や胸椎の硬さが腰痛に関与することはあります。
しかし、すべての腰痛が硬さだけで説明できるわけではありません。

むしろ、腰部の不安定性が強い方では、硬さよりも次の問題が目立つことがあります。

・姿勢を保てない
・同じ姿勢で疲れやすい
・動き出しで痛い
・片足立ちが不安定
・腰に力を入れている感覚が分かりにくい

この場合、ただストレッチを増やしても根本的な解決にならないことがあります。

必要なのは、柔らかくすることではなく、安定して使える状態に戻すことです。

慢性痛は炎症だけでは説明できない

腰痛が長引く場合、「まだ炎症が残っているのでは」と考える方も多いです。

しかし慢性痛では、炎症や組織損傷が明確でなくても痛みが続くことがあります。

慢性腰痛では、中枢性感作や痛覚過敏など、神経系の過敏化が関与する場合があるとされています。
これは、痛みを感じるシステムそのものが敏感になり、軽い刺激でも痛みとして認識されやすくなる状態です。
参考:Low back pain series. The Lancet, 2018

そのため、次のような悪循環が起こることがあります。

・軽い負担でも痛く感じる
・検査では大きな異常がないのに痛い
・不安や疲労で痛みが増える
・動くことへの恐怖でさらに体が固まる

このような腰痛では、炎症を抑えるだけでなく、体の使い方や神経筋コントロールを見直すことが重要になります。

画像検査だけで腰痛を判断できない理由

腰痛では、画像検査が重要になるケースもあります。
特に神経症状や重篤な疾患が疑われる場合は、医療機関での検査が必要です。

ただし、画像所見がそのまま痛みの原因とは限りません。

Brinjikjiらのシステマティックレビューでは、無症状の人にも椎間板変性や椎間板膨隆などの画像所見が多く見られることが報告されています。
参考:Brinjikji W, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. 2015

つまり、画像に変化があるから必ず痛い、画像上問題がないから原因がない、とは言い切れません。

だからこそ腰痛では、画像だけでなく次の点を確認する必要があります。

・どの動作で痛むのか
・どの姿勢で不安定になるのか
・体幹が正しく働いているか
・関節の動きに偏りがないか
・神経症状があるか

当院が重視していること

当院では、腰部の不安定性が関与する腰痛に対して、痛みの場所だけを見るのではなく、腰を支える機能全体を評価します。

確認する主なポイントは次の通りです。

・腰椎の可動性
・骨盤の安定性
・多裂筋や腹横筋の働き
・股関節や胸椎の動き
・姿勢制御
・動作時の腰への負担
・痛みへの過敏性

そのうえで、状態に合わせて段階的に対応します。

・関節機能の調整
・体幹筋の再教育
・姿勢と動作の修正
・段階的な負荷の再導入
・再発予防のための運動指導

大切なのは、単に痛みを一時的に軽くすることではありません。

腰が安定して働ける状態を作り、日常生活や仕事、運動で同じ痛みを繰り返しにくくすることです。

まとめ

腰痛は、外傷や筋肉の硬さだけで起こるものではありません。

腰部の不安定性があると、明確な損傷がなくても腰に負担が集中し、痛みが出ることがあります。

特に重要なのは次の点です。

・腰は骨、筋肉、神経の協調で安定している
・体幹筋の反応が遅れると腰椎に負担がかかる
・多裂筋の機能低下は自然に戻らないことがある
・慢性痛では炎症ではなく神経の過敏化が関与することがある
・画像だけでは痛みの原因を説明できない場合がある

「硬いから痛い」
「外傷がないから大丈夫」
「画像で異常がないから問題ない」

そうとは限りません。

腰痛が続く方、繰り返す方は、腰部の安定性という視点で一度状態を確認することが大切です。

ugook整骨院【浜松町・大門・芝公園】

院長:佐々木

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